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今、ニューヨークでは多くの店が閉まっているが、人々が買い物を楽しむ時期はいずれまたやって来る。
未来を考えるため、タイムアウトニューヨークは、人気ショップのオーナーやスタッフに、いつ店の再開ができそうか、買い物におけるニューノーマルとは何か、など今の思いを聞いた。
ニューヨーク州知事のクオモが今後数週間は規制が続く可能性があると示唆している中、小売店サイドも5月中に店のドアを開けて客を再び向かい入れることができるとは思っていないようだ。例えば、レコード店のA-1レコードショップ(A-1 Record Shop)で長年働いているスタッフは「5月の再開は無理だ。だから、今は完全に閉めているよ」と今の状況を教えてくれた。
資金繰りがうまく行かず休業したまま閉店に至ってしまう店がある一方、永続的に変化していくことが当たり前の小売業界らしく、多くの店では新しい状況下で回していけるビジネスモデルについてのアイデアを検討している。また、営業再開すること自体の課題もある。クオモは店の再開を希望する店に対して、スタッフと客との間に社会的距離をどう取るかなどを含め、それぞれの店が再開計画を個別に遂行していく必要があるとはっきりと語っている。
しかし、「試着室の使用」や、「商品に手を触れない買い物の指針」「ピックアップ限定するべきか」「時間をずらした買い物は浸透するのか」 といった、疑問は残る。
買い物とは基本的に、急いで楽しむことではないし、時系列に進むものでもない。例えば土曜日のニューヨーク。人々は近所を散歩しながら、何か良さそうなものはないかと、キャンドルショップや服屋、レコード屋や本屋に立ち寄る。また、きらびやかなショールームをのぞいたり、ユニークな年代物の雑貨を探したり、友達と会ってその夜のディナーにぴったりの服を見つけることを楽しみにしている人も多いだろう。店に足を運んで買い物するということは、何かを見つけるということと、それに付随する体験まで楽しむ行為なのだ。
LESにあるデザインショップ、カミング・スーン(Coming Soon)では、店先でのピックアップや配送に対応したオンラインショップに売上の多くを依存している。ただ、店鋪での買い物をしたい人のために、アポイント制での営業に対応する予定。ウィリアムズバーグのデザイングッズと家具の店、ホーム・ユニオン(Home Union)は、9万5000人がフォローしているInstagramのアカウントでのビジネスの調子がいい。ビンテージアイテムを毎日紹介して、購入希望はダイレクトメッセージやメールで受け付けている。しかし、彼らにもアポイント制で営業を始める計画がある。
対面での販売を誇りに思っている店はほかにもある。また、商品をオンラインショップやSNS向けに撮影するのは現実的ではないという店もあるようだ。
グリーンポイントのフェン・スウェイ(Feng Sway)は、シルクの着物や鎖のホルタートップのような奇抜な古着やアンティーク家具、雑貨、エキゾチックな植物などを扱うショップだ。
店長のケイトは「店でまずなんとかしなければならないのは環境。オンラインでは再現できないし、そもそも、ごちゃごちゃしていて店の隅々まで商品が置かれているので、それらを撮影することも難しい。実際に見てもらうことで商品の感じ方も変わるので、今の状況は本当に残念。でも、社会的距離を保ちながら安心して買い物を楽しんでもらえるように、商品の量を減らして空間を広げる予定よ」と、今の悩みを教えてくれた。
また、ほとんどの小売店では、欲しいものを見つけるためにいくつもの商品に手を触れる必要がある。マクナリージャクソン(McNally Jackson)やザ・ストランド(The Strand)などの本屋での買い物を思い浮かべるとわかりやすいだろう。まずは分類されたジャンル棚をチェックし、本を手に取り、裏表紙の概要を読み、棚に戻す。さらに、ほかの本を手に取り、同じような動作を繰り返す。
ブルックリンにあるスプーンビル&シュガータウン・ブックス(Spoonbill & Sugartown Books)では、既に社会的距離に対応する数字をはじき出している。オーナーのジョナスは「我々の床面積からすると、店内に受け入れる人の数をスタッフ2人を含んで一度に10人にするというのが、要件を満たす魔法の数字だと感じている」と話す。店では、受け入れ可能な人数に余裕がある時は緑に、店内がいっぱいの時は赤に点灯するライトを店の外に設置していることを考えている。店内には、使い捨ての手袋を配布し、客にはマスクの着用を求めるという。店鋪が再開するまでの間、同店では、事前に予約した本を非接触で受け取ることは可能。商品は店先に置かれ、VenmoやPayPalで支払うことで売買が完了する。
本屋で買い物をするのと同じように、レコード屋のたくさんの在庫から、自分のコレクションに加わることになるかもしれない一枚を見つけることも、実際に店を訪れないと楽しめない。
A1レコードショップで15年以上も働くベテランスタッフ、シェフとジェレミーは、ニューノーマルの時代にレコード屋に実際に訪れたような気持ちで買い物を楽しんでもらうための施策を既に考えている。
「店に並ぶレコードを端から端までチェックするというのが、多くの人にとって楽しみなんだ。だから、レコードとの出会いを楽しんでもらうために、レコード・スターター・パックという企画を考えている。例えば、50枚のディスコクラシックスのレコードを100ドルで売るというイメージ。クラシックソウルやニューウェーブ、黄金期のヒップホップなど、クラシックロックなど全てのジャンルのパックを用意する。この方法なら辛うじて気軽に買える価格だろし、まだ知らない音楽が詰まったレコード棚の一つを店頭で見ているような感覚も楽しめるだろう」
このパックの販売は、店の営業が再開できるできないにかかわらず、この夏にスタートする予定だ。
人の往来の問題も残る。観光で成り立っているニューヨークでは、買い物客も減るだろうか。シェフは「他の店もそうだと思うが、我々は本当に心配しているのは、今年、観光客が欠けることだ。今後数カ月、ニューヨークを観光で訪れる人はとんでもなく少ないだろう。我々に関して言うと、特に人々が家の中でより多くの時間を過ごすようになれば、音楽の需要はまだ存在する。生き残るために新しい方法も織り交ぜながらビジネスは続けていくが、店に足を運ぶ人は現実的には減るだろう」と話した。
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