数々の人気洋菓子店で腕を磨いた寺﨑貴視によるパティスリー。「出したい場所より住みたい場所に店を出せ」という恩師の言葉を胸に、雰囲気のある東松原の商店街を選んだ。かつては小説家を志していたという寺﨑が自店のテーマに選んだのは「物語」。生産者から店、そして選んでくれた客とのつながりをストーリーと定義する。
潔い白を基調とした店内は、まるでギャラリーのような、物語のクライマックス直前の舞台にふさわしい空間。色鮮やかに輝くチョコレートの隣には、随時10種類ほどのケーキが並ぶ。ケーキには、着想を得た小説の作品名が冠されることも度々ある。
「Black Rabbit of Inle(ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち)」は、コーヒーとヘーゼルナッツのタルト生地に、シナモンが香るバナナやクルミのビスキュイなどが重なる、冒険物語の名にふさわしくワクワクするケーキだ。購入した人が過ごす時間を経て、一つの物語は終わる。「小説家のセンスはなかったみたい」と謙遜する寺﨑だが、形を変えて夢はかなったようだ。
食材には故郷である宮城県のものをよく使うというが、「実は宮城にはしばらく帰っていない」と話す。「もっと店が多くの人に知ってもらえるようになるまでは」と、新たな夢とともに洋菓子を作っている。商品を「作品」と表現し、丁寧に言葉を紡いでいるSNSにも注目してほしい。