大徳寺から歩いて5分ほど、京都の鞍馬口通にある唐紙の工房。誰もが利用できるショップも併設されており、便箋やメッセージカードといった「唐紙文具」も販売する。古くから日本人の暮らしに溶け込んできた唐紙の美しさを身近に感じられるような一軒だ。
唐紙とは、奈良時代に中国の唐から伝わった、美しい文様の装飾された紙をルーツに持つ日本の伝統工芸品で、和製の唐紙作りは平安時代に京都で始まったといわれている。文様は、絵の具を塗った版木に和紙を置き、手のひらで円を描くようになでることで写していくので、「人の手」ならではの風合いが感じられるのもその特徴である。
同店のユニークなところは、その伝統を大切にしつつも、実験的な姿勢でプロダクトを生み出し続けていること。歴史が流れる中で「汚れやすい」「触りにくい」といった扱いにくい紙は使われなくなった。しかし、扱いにくいものこそ美しかったりもするのだ。
店主の嘉戸浩は、今は使われなくなった技術を試してみたり、絵の具の色の写し方を調整してみたりしながら、かつての職人が美しいと感じた唐紙を解体し、再解釈することで、嘉戸ならではの「新しい表情の紙」を日々構築している。ちなみに、その「新しい表情の紙」は、ショップに並ぶ商品を通して手に取ることが可能。中には、もう二度と出合えない「表情」もあるので、シンパシーを感じたものは必ず手に入れておきたい。
「胡粉(ごふん)」と呼ばれる白色の絵の具は貝殻で作られていたり、キラッと光るテクスチャーは鉱物でできた「雲母(うんも)」というものが出していたりと、自然素材だけで作られている唐紙は、その独特の柔らかさが印象的だ。眺めていると癒やしや幸せのようなものが感じられるので、同店でお気に入りの便箋を手に入れて、大切な誰かに京都から文を出してみるのもいいだろう。