インタビュー:アンマリー:ラック
2015年7月17日、安倍晋三首相は世界に向けて語った。「2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場となる新しい国立競技場の現行案を白紙に戻し、ゼロから取り組み直す」と。競技場のデザインと費用については3年近くにわたって非難されてきたが、今回の声明は、世間を驚かせただけでなく、その決定を公式に伝えられることなく、ニュースで初めて知ったザハ・ハディド・アーキテクツのデザイナーたちを困惑させることとなった。事務所側は、彼らの設計した競技場の建築が、10月には開始される見込みであり、旧国立競技場の取り壊しが5月に行われたことからも、物事が予定通りに進むものと考えていたのだ。
飾りたてたデザインが、予算を1,300億円から2,520億円にまで押し上げたのだと、政府が新たな非難をする中で、ザハ・ハディド・アーキテクツは7月28日に「事実関係をはっきりさせるため」の声明を発表した。ワールドラグビーもまた意気消沈している。ゼロからやり直すということは、競技場が2019年のラグビーワールドカップに間に合わないことを意味するからだ。ワールドラグビーの広報担当者は、新しい競技場で大会を行えるということを何度も言い聞かされていただけに、団体は「大いに失望した」と話した。
その間にも、メディアと世論が突然の決定の裏に隠された本当の理由は何なのかを探ろうとする騒ぎは広がり、ザハ派と日本派のような対立を招いた。一方には(日本の著名な建築家たちによって様々な呼び名で罵られてきた)デザインこそが、費用を2倍近くにまで押し上げた原因だと主張する人々がいて、ただし、2012年に行われたコンペティションの審査委員会の委員長を務めていた安藤忠雄が、現在でも確固としてザハ派のひとりであることは注目するべきだろう。彼は「ハディド氏のデザインを破棄すれば、国際的な信用を失うことになるだろう」と発言している。他方には、費用の急激な増加は当然のことであり、大規模な建設事業のほとんどを1つの請負業者が監督する日本の土木業界では、これは当たり前のことなのだと説明する人々がいる。そして、2020年東京オリンピック組織委員長である森喜朗が会見を開き、どう見ても筋の通らないスピーチを行うとますます状況は、泥沼に陥っていった。
私たちは、より確かな情報を得るために、2012年にザハ案が選出されたときからザハ・ハディド・アーキテクツでプロジェクトディレクターを務めてきたジム・ヘヴェリンに話を聞いた。