千日前道具屋筋商店街に並ぶ店の一つ。木を基調にした店内は、一見おしゃれな眼鏡屋か雑貨店かと見間違うほどカジュアルな雰囲気だ。ところが、取り扱っているのは400年の歴史を持つ高知県の伝統工芸品・土佐打刃物を中心とした日本の良質な包丁。高知県は古くから林業が盛んな土地で、くわやおのといった農林用の刃物が多く製造されてきた。
「徳蔵」では、そんな昔ながらの技術を継承して作られた包丁が購入できる。 目を奪われるのは、黒くさびた包丁の渋さ。「さび」といっても実は2種類あり、いわゆる「赤さび」は金属をボロボロにしてしまう性質を持つ。その一方で、「黒さび」は赤さびから金属を守る役割を果たしているのだという。焼き入れで黒くなった表面をあえて残した「黒錆包丁」は、まさにさびをもってさびを制すという知恵の結晶といえる。
うれしいのが、その価格。日本の家庭で最も使用されているのは野菜から肉までオールマイティーに活躍する三徳包丁だが、165ミリメートルのものが16,170円(税込み・取材当時)とリーズナブル。これも土佐打刃物の特徴の一つで、職人が鍛造から研ぎ上げの全工程までを一貫で作業することでコストが抑えられる。さらに徳蔵は職人と直接取引を行うことで、私たちが「伝統に触れる機会」を身近にしてくれているのだ。