往来豊かな千日前・なんば南海通りには、少しでも人々の気を引こうと色とりどりの看板があふれている。そんな中で大きな紙に墨一色、堂々たる筆遣いで書かれた新刊図書の案内に思わず足が止まる。ここは1919年から続く老舗書店「波屋書房」だ。
店のおよそ半分の棚には、日本料理を筆頭にフランス料理やイタリア料理、酒やチーズ、さまざまな調理法といった料理や食に関する書籍がずらり。プロの料理人が求めるものを中心に取り揃えており、1冊丸ごとハモについて書かれた朝尾朋樹の「秘傳 鱧料理 百菜」など高度な専門料理書が並ぶ。
どのように入荷するタイトルを決めるのかを店主に尋ねると、「プロの求める本はプロが知っている。取り寄せの依頼を受けたら2冊発注し、1冊は注文客用、もう1冊を店に並べることで棚が出来上がっていったんです」とのこと。
客と真摯(しんし)に向き合い、長く愛されてきたからこそエピソードにはこと欠かない。ここで出合った本に感銘を受け、その著者の店に弟子入りした青年もいたという。時が流れ、今度は彼の出した本が平積みにされている。まさに「1冊の本が人の運命を変えることもある」という言葉を体現しているような店だ。
プロの料理人はもちろん、さまざまなレシピ本や世界中の食文化にまつわる本、食のエッセーも充実しているので、「食べる専門」の人でも楽しめるだろう。食い倒れの街をもう一歩深く楽しみたいなら、ぜひ波屋書房を訪れてほしい。