「ゆらぎのある遊び」の重要性
「前回がさまざまな技術が見せてくれる『日本の未来』だったとしたら、今回は技術が引き出す『命の爆発的な創造性』ではないかと私は考えています」
中島さち子はSTEAM教育の専門家として、「創造性の民主化」を発信し続けてきた。これは、従来であれば芸術家や研究者や起業家などにあると思われてきた創造性が、一個人にも必ず備わっているという考えに基づいている。
「小さな子どもでも、おじいちゃんおばあちゃんでも、創造者であり得る。一人ひとりの中に一つひとつの命が宿り、これを何らかの形で表現したり伝えたりしたい衝動がある。万博ではそんな一人ひとりの創造性をいかに引き出すか、そして実現していくかが勝負だと思っています」
中島が担当する「いのちを高める」というテーマは、厳密には「いのちを高める(遊びや学び、スポーツや芸術を通して、生きる喜びや楽しさを感じ、ともに“いのち”を高めていく共創の場を創出する)」(原文ママ)というものだ。建築家や数学者たちと話し合いを重ね、たどり着いたのは「ゆらぎのある遊び」の重要性だ。
中島が専門としてきた音楽や数学、そして技術と遊びを融合させ、創造性を育む空間を思い描き、クラゲをモチーフにしたパビリオン『いのちの遊び場 クラゲ館』の構想が生まれた。
「揺らぎのある遊びがないと創造性って生まれないんですね。学びは目的が重要だと言われますが、遊びには意外と目的がない。遊んでいるうちに、その人なりの目的が生まれてくるんです。砂場で泥だらけになるうち、お城を建てようとかお堀を作って水を流してみようとか思うようになる。そういう揺らぎのある遊びが、今すごく大事な気がしています」