東北3

東北探索 第3回『宮城で島めぐりと人間観察』

タイムアウトニューヨークの記者による東北探索

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タイムアウト東京 > トラベル >東北探索 第3回『宮城で島めぐりと人間観察』

in association with NHK WORLD
テキスト:Joel Meares
写真:Keisuke Tanigawa
翻訳:Momoko Asai

今年で東日本大震災から5年が経つ。タイムアウトニューヨークの記者が現在の東北で訪れるべきスポットを紹介する連載の3回目では、巨大な津波が沿岸市町に押し寄せるなど甚大な被害を受けた宮城県を訪れた。昼間は浮世絵のように美しく、夜はネオンがきらめく日本で最も美しい地域である。『Island-hopping and people-watching in Miyagi』と題し、日本三景のひとつである松島を巡り、昭和の雰囲気漂う仙台の元祖炉ばたで味わう。

第1回『武士の歴史を追って 福島県西部』
第2回『東北で見つけた海の生き物たちとフラダンス』

日本には公式に定められた、日本で最も美しい景色を示す「日本三景」が存在する。その選定に議論の余地はない。儒学者の林鵞峰(はやしがほう)が日本三景を選んだのは、はるか昔1643年のことで、世界の七不思議と同じく歴然たる事実であるかのように広く受け入れられている。実際に、日本三景のひとつである松島を訪れると、この賢い学者の選択に逆らう気持ちは失せてしまう。

北日本の宮城県にある小さな町の沿岸には、260本もの松に覆われた石灰岩の小さな島々が、どこまでも穏やかな入り江に点々と散らばっている。その景色を岸から小さな五大堂の隣に立って眺めると、霞がかった陽光と青い海がまさに北斎の浮世絵のようだ。フェリーに乗って、島々や点在するカキの養殖場の間を縫いながら進んで行くと、まるで自分が絵の中に溶け込んだかのように思えてくる。

これらの島々は、昔から松島を様々な方法で守ってきた。かつて侍は、海から攻めてくる敵をここから見張り、2011年3月には、近隣の多くの町を破壊した津波に対して緩衝帯の役割を果たした。とはいえ、松島も無傷ではなかった。フェリー乗り場には、半分水に浸かったバスなど当時の様子を記録した写真が置かれている。それでも、松島の町はほとんど無傷に美しいまま震災を乗り切った。

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1番の見どころは瑞巌寺(宮城県宮城郡松島町松島町内91)だ。828年に建立され、16世紀初頭に大名伊達政宗により再建された。寺に近づいて行くと、2011年の津波の爪跡が目に入る。かつて寺の参道沿いにあった杉の小さな林は、海水で土壌が汚染されてしまったため植え替えが行われており、本堂を含む2つの主な建物は大修理の最中だ。代わりに、今まで一般に公開されたことのなかった庫裡(くり)と呼ばれる台所にあたる建物が公開されており、瑞巌寺の非常に重要な工芸品や聖像を見ることができる。敷地内の宝物館(青龍殿)には、さらに多くの工芸品が展示され、本堂の美しい巨大な唐戸が修理される様子も公開されている。庭には苔むした岩窟と、伊達政宗の正室の墓堂がある。

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歴史を堪能して近代が恋しくなったら、1時間ほどの距離にある仙台市を訪れよう。東北で1番の大都市仙台には、近代日本の面白さが溢れている。明るいネオン、気取らない居酒屋、複数の猫カフェ、パチンコ店では、最高の人間観察ができる。ミュージカル『キャッツ』の猫に化けた女性が、交差点を渡っていく……。

アエルビル(宮城県仙台市青葉区中央1-3-1)の31階からは、仙台市とその先を一望でき、山の中腹に建つ約100mの大観音像を眺めることもできる。市内のクリスロードにはたくさんの店がひしめき合い、町はあたかも巨大なモールのようだ。そのなかでも勧めたいのは、1950年創業の元祖炉ばた(宮城県仙台市青葉区国分町2-10-28)だ(25年前に現在の場所に移転した)。タイムスリップしたかのような気分が味わえる、小さなレストランを見つけ出してほしい。

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気さくな女将を囲むように造られたカウンターに座ると、女将が約3m先から櫂(オール)に、温めた酒をのせて提供してくれる。日本情緒たっぷりの料理の数々も素晴らしい。見事な切れ目が入ったイカの丸焼きは、アコーディオンのように目の前に横たわる。殻付きのウニを焼いたものや、もし勇気があるなら(そして倫理的に問題ないなら)鯨ベーコンも勧めたい。

木のそろばんで計算され、勘定書きは墨で手書きされる。元祖炉ばたは、公式な日本三景には含まれていないが、仙台三景に含まれる価値はあるだろう。

『Island-hopping and people-watching in Miyagi』の原文はこちら
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