インタビュー:LITE

国産インストバンドの雄に、世界中がアイラブユー

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インタビュー:三木邦洋
撮影:谷川慶典

ポストロックのシーンが日本でも形成され始めた2003年、ロックバンドLITEは結成された。その3年後にはUK、アイルランドツアーを敢行していた彼らは、今や世界中のライブハウスから呼び声のかかる日本随一のインストロックバンドとなったわけだが、彼らの場合、海外活動が彼らのクリエイティビティやバンドの寿命そのものにも良い影響を与えている印象がある。2016年11月に発売された5枚目となるフルアルバム『Cubic』は、海外でのワイルドなツアー体験を反映させ、従来の箱庭的な手法から離れたオープンな空気に満ちた内容だ。そして、来る2017年2月からは全国ツアーに出発することになっている。本人たちの口から語られる、作品を作り続けるための秘訣、そして海外活動のメリットとは。

なんで彼らは英語で歌っているんだい

—新作『Cubic』発売に際してワンマンツアーが2月から始まります。作品がリリースされた11月から現在までも、mouse on the keysとアメリカツアーを回ったりと多くのライブをしてらっしゃいますが、『Cubic』制作で得た手応えはどういったものですか。

井澤惇(Bass):『Cubic』を出すまでの4、5年間くらい、セットリストの1曲目が変わっていなかったんですよ。今回のワンマンツアー前にライブを増やした理由は、『Cubic』の曲を2月までにライブ感を出してできるようにするため。そのためにセットリストの1曲目も変えるチャレンジをしてみたり。たかが曲順かもしれないですが、それだけでもバンドにとっては凄い変化なんです。発売後の数ヶ月はそういったことを試す期間ではありましたね。

武田信幸(Guitar):今回、『Warp』という(武田自身の)歌の入った曲があるんですが、この曲なんかは歌の扱いを含めて、発売後のライブでさらにブラッシュアップさせましたね。あとは、今のところはこの曲をやる前はMCで説明した方が良いんだな、とか。そういうことを試して、判断していますね。

—『Cubic』は全体的に、これまでになく風通しの良いサウンドになっている点が印象的でした。

武田:前作がPCベースでの制作で、目一杯音が入った状態から削っていくという作業の結果だったんですね。ただ、たとえばギターが4本重なっていたりと、ライブでそれらの曲をやるときに再現に無理が出たりした。なので、今回は最小のところから作り、少しずつ足していって、タイトに研ぎ澄まされた音しか入れていないんですね。空間を感じるプロダクションになっていると思います。

井澤:ミックスにおいても、これまでは派手にすることが念頭にあったけれど、今回は奥行きを出すということがテーマにありました。そこが風通しの良さに繋がっているのかもしれない。なので、音の置き方や、持ち上げるのではなくて抑えて行く方法は前回までと全然違いますね。


—『Inside the Silence』や『Blackbox』のような間奏曲的な曲が入っていますが、ダウンロードで1曲単位で聴かれたり、買われたりが多い状況が多いなかで、あくまでアルバムをこういった構成にしたのは、やはりアルバムというフォーマットにこだわりがあるからですか。

武田:そうですね。ライブって1曲では成り立たないじゃないですか。流れがあって、曲が輝いたりする。それと同じで、アルバムにも流れは必要だと思っています。

井澤:数曲でき上がって、曲順をどうしようかという話になるわけです。このドラムにはゆっくりと繋げていきたいとか、この曲とこの曲の間には何秒間か空けたいとか、ビートのない曲を挟みたいとか。そういったイメージからまた曲を作っていく。曲の流れというのはすごく大事です。

武田:相互作用があると思うんですよ。曲を引き立たせることを考える。昔から、陰と陽の関係をとても大事にしてきたバンドなんで。

井澤:その点では、『スポティファイ』とかの定額配信サービスは少し悲しいけどね。無料会員だとシャッフル再生になっちゃうとか。

武田:悲しいですけど、だからこそライブに価値が出ると思う。ライブに行けば、コンテンツ(曲)を一個一個、バラバラに聴くよりも、何倍も感動があるということに気がつくかもしれない。

—『Warp』という曲は、武田さんが初めてボーカルをとった曲ですが、歌詞を日本語にしたのはなぜですか。インストバンドであることを武器に海外進出したLITEが歌ものをやるのであれば、英語詞のほうが良いのではという意見もありそうですが。

武田:当然日本語、って感じですね。ようやく我々は海外でもそこそこ認知されてきたんですが、やっぱり「日本のバンド」として見られているんですね。日本って、ガラパゴス的な発展を遂げているバンドがいて、僕らもそのひとつだと思っているんです。だから、日本的な部分をあえて押し出していって、どんな反応が返ってくるのかなという思いもありました。

—海外進出の際に英語詞に切り替えるアーティストもいますが、そうではなく。

武田:海外に行けば行くほど、日本人が英語で歌うことの摩擦のようなものは感じますね。「なんで彼らは英語で歌っているんだい」「あれは英語なのか?」という意見は、現地の人からよく聞きましたね。

日本のリスナーが独特なんだなと

—約10年前にアメリカからはじまった海外シーンとの繋がりは、現在まででどのように発展しましたか。

武田:まず、僕らを初めにアメリカに呼んでくれたのはマイク・ワット(故D・ブーンとともにバンドMinutemenを率いたベーシスト)なんですね。彼のThe Missingmenというバンドのアメリカツアーに同行して回ったことが4回くらいある。

そのときはお客さんはマイクのお客さんですから、年齢層も比較的高くて。その後、近いジャンルの現地のバンドとまたツアー回る機会があって、その時に同世代の若いお客さんに受け入れられたことで、僕らを受けとめてくれる土壌があることにようやく気付けた。シーンが根付いているから、お客さんもアーティストも若返ってきている。「LITEを高校生の時に聴いてたから共演できて夢みたいだよ」と言ってくれる人もいたり。

井澤:アメリカに行った当初は、僕らは土俵が違う感じというか、違うシーンから出てきた感じに見られていたと思うんですよね。でも、最近はネット社会になって、イギリスのシーンの情報が入ってくるような感じで日本のポストロック、マスロックシーンに興味があるアメリカのバンドマンとか音楽好きがかなりいて。マイク・ワットとツアーできたことは僕らにとってすごく大きな経験になったんですけど、この時は深夜公演が多かったので、そういうネット経由で僕らを知ってくれていた若いファンにアプローチできていなかった。

—アメリカだとどのあたりがLITEにとってやりやすい地域ですか。

井澤:やっぱり東海岸ですかね。これは日本でも同じなのですが、僕たちの音は都会の人たちに響くみたいで。海外を回るときは、姉妹都市を確認すると客の入りとか反応が分かりやすいんですよ。今日サンディエゴだから、横浜か!みたいな(笑)。実際に、横浜でやるときと近い感触がある気がする。

—ポストロック、マスロックと呼ばれるようなジャンルは、日本だと比較的シリアスだったりマニアな感じのリスナーが多いイメージがありますが、欧米ではどうですか。

井澤:その辺は日本と全然違って、特にイギリスはキッズが多い。僕らの曲でモッシュしたりダイブしたり、ちょっとクレイジーな感じ。

武田:曲のフレーズを大合唱し始めたり。アメリカやアジアを回っても結構そんな感じで。そう考えると、日本のリスナーが独特なんだなと。日本のファンはすごく真剣に聴いてくれる。

—日本だと、LITEのライブでダイブはあまりないですかね。

武田:ゼロですね(笑)。

井澤:だから日本のリスナーがつまらないとかではまったくなくて、僕ら自身も実際そういう聴き方をしますし。踊りたいとか、はっちゃけたいとかいう気分じゃない、ただ音楽を聴きたいという人もいるわけですから。

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中国のリスナーの熱心さ

—アジアはどこをツアーしたのでしょうか。

武田:直近で言うと、中国ですね。

井澤:中国ツアーとは別で、台湾、シンガポール、マレーシア、香港も回りました。

—アジアでは基本的には作品のリリースはされていない状態なわけですよね。

井澤:台湾では昔に一回だけ、『For all the innocence』(2011年リリースのサードアルバム)のときに出しましたけど、それっきりで、基本的には(現地のレーベルを通しての流通は)ないですね。輸入盤としてショップに置いてある場合はあるかもしれませんが。

—中国のときは、どのような経緯でツアーを組んだのですか。

武田:MogwaiとかBattlesを中国に呼んだ現地在住のベルギー人がいて、彼に声をかけてもらったかたちですね。

—ワンマンライブも行われたとのことですが、作品もリリースされていない土地でもたくさんのファンが集まることは、不思議ではなかったですか。

武田:すごく不思議でしたね。中国の厳しい情報規制をかいくぐって聴いてくれている人がこんなにいるんだ、と。

—彼らはLITEの『YouTube』コンテンツすらも観られないんですよね。

井澤:『YouTube』はもちろん、『Twitter』も『Facebook』もない。ほかの国のサーバーを経由する方法でしか観れない。僕らも現地での発信はそうでしたから。だから、ファンが純粋なんですよ。必死に探った未知の音楽の情報のなかで、日本のこういうバンドが来るから観に行ってみよう、という人たちがお客さんなんです。昔の、CDを買ってライナーノーツを読んで知って、みたいな感じに近いのかな。

—受け身ではそういう情報を知れない環境にあるわけですよね。

武田:そう。ディグらないと辿り着かないのだと思います。

井澤:実感としては、アングラなものだとポストロックのシーンなどが主に日本の音楽として認識されているように見えましたね。そのほかだとはアニソン。その両極といった印象。日本で流行っているギターロック的なものはまだあまり認識されていないようでした。それは、world's end girlfriendやtoeといった先輩たちが先陣を切って(アジアに)行って、開拓してくれていたことも大きいと思います。

海外での活動は一日にしてならず

—海外ツアーを組むにあたってのプロモーションのコツは何でしょうか。

武田:単純なことですが、普段から英語でアピールしているアーティストがまだ少ないですよね。ウェブサイトしかり、『Facebook』や『Twitter』しかり。特に『Facebook』は我々の場合、海外からのアクセスが一番多いので、英語で情報を流すだけで、広がり方が違うというのは日々感じていますね。

井澤:大阪でライブやるなら「osaka」って書くだけとか、そんな程度ですけど、それで分かるじゃないですか。

—なるほど。アジア圏へのアピールに関してはどうですか。

武田:欧米でもアジアでも、現地の人々は日本のシーンをよく知っている人たちが呼んでくれたりライブに来てくれるわけです。だから、(英語での発信などと同時に)日本国内でもそれなりに認知されていないといけないということ。その両軸を持つことはアジアでも重要だと思いますね。

井澤:うん。実感として、アジアの場合は、日本で売れていたら向こうでもそれなりに入ると思いますね。

—ライブ会場でのグッズ販売では何が売れますか。

武田:欧米では完全にレコードですね。Tシャツも売れますけど。

井澤:タオルなんかはまったく売れないですね。バンドのグッズにタオルというのが新鮮みたいで、珍しさで買って行く人がいる程度。レコードはグッズ感覚というか、飾るためとか、サインもらうためという人も多いように見えます。僕自身、最近買うのはレコードばっかりなんですが、集める楽しさが違いますよね。カーステとか外で聴くときは『スポティファイ』を使えばいいですし。

武田:CDで聴く意味って、段々薄れてきたよね。

—『Cubic』はCDとアナログ盤でマスタリングは異なるのですか。

井澤:本来はそうするものですが、今回はあえてアナログレコード用の音圧の抑えられたマスタリングがCDでも使われています。今、日本でリリースされている音楽の音源って、音圧がものすごくて、音圧戦争状態というか。マスタリングでいかに音を大きくするかみたいな。イヤホンで聴くと音が潰れて何やってるのか分からなかったりする。で、今回は先ほどお話ししたように、奥行きを大事にした音の素材だったので、音量を上げるというよりは、全体をゆったりさせるためにアナログ用のマスタリングを採用した方がゆとりができるんじゃないかと。

—なるほど。それはバンドとしては初の試みですか。

武田:そうですね。mouse on the keysとのスプリット盤(アメリカのインディーレーベルTopshelf Recordsより発売)ではCDとアナログで異なるマスタリングになっていました。

—行政書士でもある武田さんは、ライブハウスなどの特定遊興飲食店営業の申請に携わったりされているとのことですが、なんでも、バンドが海外ツアーをする際に国から補助金をもらえる制度があるとか。

武田:そうなんです。経産省のクールジャパン推進の一貫なのですが、日本のコンテンツを海外に広めるためのプロモーション費用を国が出してくれる。音楽やアニメ、漫画など、それらを広めるためなら、渡航費や宿泊費、現地での交通費など必要経費の半額が戻ってくるという制度です。これが意外と知られていないんですね。バンドマンにはなかなかそういう情報網がないですから。私は行政書士をやっている関係で、知っていたのですが。

井澤:たまに物販で『チロルチョコ』を配りましたよ(笑)。日本のお菓子を広めるためということで。

武田:LITEのアルバムジャケットをプリントした『チロルチョコ』を配ったんですよ。

—そういう条件が与えられるんですね(笑)。インディーズのバンドにとって海外遠征は金銭的な壁がありますから、そういう制度の認知は広まってほしいですね。

武田:海外での活動って、一日にしてならずだと思うんですよ。一度行ってだめだったね、で終わってはだめだと思う。僕らも初回はボロボロで、散々な結果だったんですよ。

井澤:2回目もボロボロで、もう帰りてー……みたいな。

武田:でも、それでも現地で生まれた繫がりが次の流れを作っていく、ということの繰り返しだと思うので、やり続けていれば次の事が起こるし、海外でもやっていけると思う。

井澤:The fin.がイギリスに移住したのを見て、今しかないよなって思いましたね。僕らも、若いときに思い切って海外に出ておいて、良かったなと思います。今行かなければ一生行かないと思うし、やらなかったら後悔すると思う。だから、バイトしてでも行きな!って(笑)。

武田:あと、海外でやって帰ってくると、次回行くときはこういう曲をやると盛り上がるんじゃないかとか、外国の観客を思い浮かべながら曲を作っていくという部分がかなりあって、それは大きなフィードバックですね。

井澤:根幹になっているんじゃないですかね。『Cubic』も、海外のラフな音響環境でもできる曲という前提で作っているというか。

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【Bose CM(YouTube)】
https://www.youtube.com/watch?v=FuCy1Tj0a98

【Bose&Spotify Special WebSite】
https://www.bose.co.jp/ja_jp/better_with_bose/spotify.html


【LITE “Cubic” Tour 2017】

2017年2月2日(木) 梅田Shangri-La

OPEN 19:00 / START 19:30
ワンマンライブ

2017年2月3日(金) 名古屋JAMMIN’
OPEN 19:00 / START 19:30
ワンマンライブ

2017年2月4日(土) 渋谷WWW X
OPEN 18:00 / START 19:00
ワンマンライブ
*ゲスト:タブゾンビ(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、根本潤(Z、THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT)

2017年2月10日(金) 広島4.14
OPEN 18:30 / START 19:00
ワンマンライブ

2017年2月11日(土) 福岡UTERO
OPEN 18:30 / START 19:00
ワンマンライブ

2017年2月12日(日) 高松TOONICE
OPEN 18:30 / START 19:00
ワンマンライブ

2017年2月17日(金) 札幌BESSIE HALL
OPEN 19:00 / START 19:30
ワンマンライブ

ADV ¥3,500 / DOOR ¥4,000 (Drink代別)
*チケット発売中

【LITE “Cubic” Tour 2017 -Extra-】

2017年2月24日(金) 磐田FM STAGE
“MIDJIVE Vol.14”
w/Crypt City / MASS OF THE FERMENTING DREGS
Opening Act: yamanohiroyuki
OPEN 19:00 / START 19:30
ADV ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (Drink代別)

2017年2月25日(土) 徳島 祖谷渓温泉ホテル 秘境の湯
"GOODNESS onsen"
w/クラムボン / LOSTAGE / 佐伯誠之助 / クリトリック・リス / 溺れたエビ! /
ROTH BART BARON / tricot / 渡辺俊美 a.k.a THE ZOOT16 + ミドリのマル /
MOROHA / 王舟 / Crypt City / 中山女子短期大学 / and more...
OPEN 10:30 / START 11:30
ADV ¥6,500 / DOOR ¥7,000

2017年2月26日(日) 京都METRO
"Crypt City × LITE × MASS OF THE FERMENTING DREGS"
w/Crypt City / MASS OF THE FERMENTING DREGS
OPEN 18:00 / START 19:00
ADV ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (Drink代別)

*チケット発売中

【LITE & mouse on the keys "NORTH AMERICAN TOUR 2017"】
2017年3月13日(月) Detroit, The Loving Touch
2017年3月14日(火) Chicago, Lincoln Hall
2017年3月16日(木) Baltimore, Baltimore Soundstage
2017年3月17日(金) Philadelphia, Boot & Saddle
2017年3月18日(土) New York, Posisson Rouge
2017年3月19日(日) Boston, The Sinclair

*チケット発売中

【Release】

タイトル: Cubic
発売日: 2016年11月16日
価格: CD ¥2,300(+Tax) / Vinyl + CD ¥3,500(+Tax)
レーベル: I Want The Moon (Japan) / Topshelf Records (North America / Europe)
品番: CD IWTM-1008 / Vinyl IWTM-1009
収録曲:
1. Else
2. Balloon
3. Warp
4. Square
5. Inside The Silence
6. Angled
7. D
8. Prism
9. Black Box
10. Zero

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