メディアで言われているところのEDMではない
―『ULTRA JAPAN』はEDM系フェスティバルの象徴的存在とされていますが。
小橋:僕らは一度も自分たちでEDMフェスティバルと言ったことがないんです。基本的に『Ultra Music Festival』は、ダンスミュージックの祭典なんですよね。 ダンスミュージックって、常にジャンルが変化していて、実はEDMという言葉すらもメディアの中で意味合いが変わってしまったんです。もともとは「エレクトリック・ダンス・ミュージック」という単語で、電子音を使ったダンスミュージックを包括したシーンの総称で、ロックやヒップホップのような大きな枠組なんです。
一気に広まった時にEDMという言葉が一人歩きして、その時に知られたのがビックルームといわれるハイテンションな音楽ジャンルなんです。それを各メディアやレコード会社が「EDMチューン」として派手でアゲアゲの音楽として広めた。そのタイミングで世界中でフェスティバルもムーブメントになったから、その手の音楽やイベントがイコールEDM系とされてしまった。なので、EDMフェスティバルって勝手に言われましたが、主催者側がEDMフェスティバルと言ったことは一回もないんです。
ダンスミュージックのシーンは移り変わっていて、じゃあ今回出演するKygoやDJ SnakeはEDMなんですか?という話で。いわゆる世の中の人が思っているようなEDMの音ではないです。『ULTRA JAPAN』が提供しているのは、新しいシーンや音楽ジャンルです。例えば、テクノのDJがシーンのど真ん中に来たらメインステージに立つわけで、2007年にJohn Digweedが立ったこともあったんですよ。昨年はトラップのアーティストがメインステージに出たりと、扱うジャンルは幅広いです。本来の意味での「エレクトリック・ダンス・ミュージック」という枠組みでやっているつもりで、メディアで言われているところのEDMではないんです。
『ULTRA JAPAN』のメインステージでプレイされるような音楽は、慣れていない人には騒がしく聞こえるかもしれないんですが、僕はこれはフェスティバル・ミュージックだと思っていて。数万人が集まる規模だからこそ、トランシーな高音が伸びて下に低音が入る、広い場所に栄える楽曲になっていて、フェスティバルの会場が巨大化したことによって必然としてああいう音になった。それを小さいクラブでガンガンやるから、ちょっとおかしなことになっていて。壮大な空間で演出や音響など含めて聴くと、考え方がガラッと変わると思います。情報だけで偏見を持っている方はまず体感してほしい。
―確かに。自分もその音楽が本来鳴るべき環境で体験して、本質的な魅力が理解できた経験があります。国内のDJが『ULTRA JAPAN』に出たい場合はどうすればいいですか。
小橋:今は作曲を初めてからあっという間に作品リリースの段階に行くことができる。それこそ、Oliver HeldensやKygoなどはお客さんとして『Ultra Music Festival』に来ていて、1年後にはメインステージに立っているみたいな。それは曲がヒットして世界中の人が聴いているからで、それぐらい今のシーンはいきなり上がって行ける可能性がある。
若い人たちはコンピュータで曲をパパッと作ることができる。そういう意味で僕はBanvoxという日本人の若手を推していて。彼の音楽を聴いた時に感動して、直談判で長文のメールを書いたぐらいなんですよ。また彼のインタビュー記事を読むと、「人生でやりたいことがなくなって死のうと思ったけど、親に音楽ぐらい残していこう」と思い、音楽ソフトを持って部屋に籠って独学で半年間で作り上げた音楽が、大手音楽配信サイトの『Beatport』で世界第2位になるというストーリーが書いてあり、彼の熱意にも感動して。彼のようなアーティストを『ULTRA JAPAN』としてサポートして、むしろ我々を踏み台にして世界に行って欲しいと思ったんです。
それは本国の『Ultra Music Festival』のマインドにもあります。Aviciiも無名だった頃からサポートをして、1年後にはメインステージ。そして世界に羽ばたいていく。マイアミの『Ultra Music Festival』は毎年3月に行われて、その年の音楽の流れを決める。新人をいち早く見つけてサポートして世界に出していく重要なイベントなんです。