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ジャニス・ウォン(Janice Wong)と聞いて、すぐにピンと来る人はまだ少ないかもしれない。2016年4月15日(金)、新宿駅新南口に新たに誕生する商業施設、ニュウマン(NEWoMan)内に「JANICE WONG」という名のデザートバーをオープンさせる彼女は、2013年、2014年と2年連続でアジア最優秀パティシエにも選ばれた、シンガポール出身の実力あるパティシエだ。そんな彼女が先日、15日のオープンに先駆けて日本に来日。デモンストレーションも交えながら、日本でも提供されるグランドメニュー2品を披露してくれた。ここでは、4月15(金)に日本初上陸を果たすジャニス・ウォンのデザートについてレポートする。
彼女の持ち味は、五感を揺さぶるアーティスティックなデザートだ。と言い切りたいところなのだが(とてもアーティスティックで国内外を問わず高い評価を得ているのは事実だが)、今や「デザート=美しい」という定義でもあるかのように、美しいデザートは世にたくさん溢れている。つまり、それなりに美しくても可愛くても、それだけでは他のデザートと変わり映えしない、ありきたりなデザートとして扱われてしまっても仕方がないということだ。彼女の作るデザートも確かに美しい。しかし、決してありきたりだとは感じさせない。それは、彼女には、豊かな感性や発想力で「ジャニス・ウォンのデザート」を生み出していく力があるからだ。
『CASSIS PLUM(仮称)』は、まったくレシピがない、ゼロの状態から、約3ヶ月間の月日をかけて作ったというデザート。見た目もピンクで可愛らしく、春をイメージしたデザートだ。ただし、それだけではない。春だからカシスとあわせて筍を使おうという、ものすごい発想のもとに誕生したデザートでもある。どう考えても相性が良いとは思えないカシスと筍。そんな2つを調和させたのが梅しそだという。しそ梅酒で作られたゼリーやかき氷は、春らしい色を添えるのとともに、味を調えるという重要な役割も果たしている。食べるのが惜しくなるほど繊細に作られているが、時間がたつと溶けたり崩れたりしてしまうため、美味しく味わえるのは一瞬という儚いデザートだ。
制作過程もまるで実験をしているかのよう。想像していたデザート作りを遥かに超えていた。
また、それぞれのデザートにストーリーを込めるというジャニス・ウォン。今回披露されたもう1つのデザート、『POPCORN(仮称)』は「FUN」をコンセプトに幼いころの楽しい思い出を表現した一品だ。ポップコーンと言いながらも、我々が思い浮かべるスナック菓子の姿はしていない。しかし、パルフェのベースとなる生クリームにはポップコーンの香りを移しているため、風味や味わいは確かにポップコーンで、なんとも不思議な感覚だ。また、映画館でカップルが甘いポップコーンかしょっぱいポップコーンかで悩んでいる光景を思い浮かべたという彼女は、2種類のパルフェ(甘いものと塩気のあるもの)を揃え、その両方を味わえるプレートに仕立てた。高知県産の柚子を使用したソルベや塩キャラメルなども添えられており、様々な味を楽しみながら食べ進めることができる。
さらに皿などの陶器までも彼女自身がバリの工房で焼いたものだというから驚きだ。ポップコーンの長さに合わせて、また、ポップコーンの香りを楽しめるよう考えて作られた筒や皿は、彼女のデザートをより引き立てている。日本での提供方法や、日本の店舗でも彼女の器が使用されるかはまだ未定。しかし、せっかくならば、彼女の手によって作られた器でデザートが食べられることを願いたい。
豊かな感性や発想力はもちろんのことながら、常に「これが完璧ではない、日々完璧に近づけていくのだ」とストイックに考え、新しいものを作り続けている彼女だからこそ、その作品には新鮮さや自由さが生まれ、人々を魅了しているのであろう。そして、それがただ美しいデザートとは違う点なのだと思う。パティシエというよりも、アーティストと呼ぶ方がふさわしいようにも思えてくるジャニス・ウォン。シンガポールには四季がないことから、日本では季節ごとのメニューも提供していきたいと語っていたので、今後発表されるメニューにも期待したい。