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地方創生の成功例、大地の芸術祭について知っておきたい基本的なこと

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Time Out Tokyo Editors
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Originally posted July 6 2015

「西の直島、東の越後妻有」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。アートによる地方創生の稀有な成功例として、海外や行政団体から熱い視線を浴びる2つの地域を指す言葉だ。その東を担う『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』には、50日間の期間中に50万人近くの観光客が国内外から訪れ(前回2012年)、もはやアートファンでなくとも知らないではすまされない一大イベントとなっている。「新潟のどこかでやっている」「広すぎて車がないと楽しめないらしい」「YEN TOWN BANDがライブするらしい」などなど、あやふやな印象は一度すっきりと整理させておきたいもの。ここでは、今さら人には聞けない基本的なことや今年の見所などを簡単に紹介するので、2015年7月26日(日)の開始を前に、予習復習をしておこう。

「越後妻有」とは新潟県の十日町市と津南町のこと。

大地の芸術祭写真

『Soil Museum もぐらの館』閉校した小学校を活用した、土を体感する美術館。直径4.2m、重さ21tの土の球体、大平和正による作品「風還元『球体01』」が出迎える

そもそも舞台となる越後妻有(えちごつまり)という地名も何となくでしか知らない人も多いだろう。新潟県ではあるが海の近い新潟市からは遠く、米どころとして名高い魚沼と同じ県南部に位置する。日本でも有数の豪雪地帯である同地は、冬場には2~3mもの積雪になる。山々に囲まれ信濃川の流れる豊かな自然の一方で、雪に閉ざされた陸の孤島という側面もあわせ持つ。「人間は自然に内包される」という、『大地の芸術祭』のコンセプトを体現した辺境の地だ。しかしながら、東京からは車で3時間、電車ならば新幹線を使って2〜3時間でたどり着く。意外と近いと感じるのではないだろうか。

大地の芸術祭写真

カサグランデ&リンターラ建築事務所『ポチョムキン』。川沿いにできたコールテン鋼だけで区切られた空間が心地よく、世界中の建築学生が見学に訪れるスポットになっている

大地の芸術祭写真

カサグランデ&リンターラ建築事務所『ポチョムキン』

2015年に観ることのできる作品は約380点。

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内海昭子『たくさんの失われた窓のために』。『ポチョムキン』からも遠くないこの作品は2006年のもの

今年で第6回を迎える『大地の芸術祭』では、過去の開催時に制作された恒久作品も鑑賞することができる。その数は回を追うごとに増してきて、今では約200点にも達する。新作だけでなく、『ポチョムキン』をはじめとした過去の名作をあわせて観られるのも、長く続いてきた芸術祭ならでは。一過性のお祭り騒ぎで終わらせない、確かなビジョンがあってのことだろう。もちろん新作も、会期中しか観ることのできないインスタレーションやパフォーマンスを含め、約180点と豊富に用意されている。横浜美術館での大規模展もある蔡國強や、イリヤ&エミリア・カバコフなど、『大地の芸術祭』とも縁の深い錚々たるアーティストたちの新作は必見だ。

大地の芸術祭写真

イリヤ&エミリア・カバコフによる言わずと知れた名作『棚田』

大地の芸術祭写真

奥に見える棚田の風景が美しい

芸術祭の拠点施設は3つ。

大地の芸術祭写真

拠点施設にて現在制作中の蔡國強による新作『蓬莱山』は、古代中国の仙境「蓬莱山」というユートピアを現出させる

広大な面積に作品が点在する同芸術祭だが、第2回の2003年からは3つの施設が拠点として機能してきた。十日町の中心市街にある「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」、棚田が美しい松代(まつだい)エリアの「農舞台」、豊かな自然環境について学ぶことのできる「森の学校 キョロロ」だ。当初「越後妻有交流館・キナーレ」として誕生したためか、キナーレには、郷土料理を提供する飲食店や温浴施設なども入っている。2012年に改めて美術館として再出発したという点からも、この地でアートが存在感を増しているということが分かるだろう。そのほか、廃校になった小学校をリノベーションした「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」も2009年に開館。今年はさらに小中学校を利用した新施設が続々とオープンするという。

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「ユートピア(=どこにもない場所)」であるがゆえのまやかしを、作品の裏側が物語る

大地の芸術祭写真

カバコフによる『棚田』も収蔵する農舞台は建築からして興味深い。特にトイレは必見

2015年は中心市街にも注目。

大地の芸術祭写真

中心市街地にて進行中のプロジェクトのひとつ

各作品ごとの設置場所に距離があるため、車がないと不便という声を聞いたことがある人もいるだろう。しかし今年は、市街地域にも力を注いでいるようで、上述のキナーレ以外にも町なかにアートが出現する。なかでも注目なのが、現代芸術活動チーム「目【め】」の作品『憶測の成立』だ。目【め】は、空におじさんの顔を浮かび上がらせるプロジェクトや、展示空間を別空間のように作り替え、そこに様々な仕掛けを忍ばせたインスタレーションなど、想像力を刺激する作品で人気の若手アーティスト。キナーレからほど近いところにある新作は、普通のコインランドリーにしか見えない。一見何の変哲もない空間に、目【め】はどんなサプライズを隠しているのか。子どもから大人まで静かな興奮を楽しめる、同芸術祭でも注目の1作品だ。

大地の芸術祭写真

どう見ても普通のコインランドリーだが……

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目【め】の南川憲二(左)と荒神明香(右)

芸術祭に寄せる期待は地元住民からも厚い。

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高橋匡太『Gift for Flower Village 2015』Photo by Osamu Nakamura。観光客の減る芸術祭期間外の冬場にも、雪原を彩るイルミネーションなど魅力的なイベントが

過疎の進む、ひなびた町が現代アートで活気を帯びるなどと、この町の誰が想像できただろう。実際、第1回の準備段階では反対意見がほとんどだったという。信用を得るに至った理由は、単なる経済的な成功ばかりではなさそうだ。芸術祭自体は3年のうち50日間という限られた期間だけだが、それ以外でも観ることのできる恒久作品が置かれたり、定期的にアートイベントも開催されるなど、普段から地域密着が意識され、地道なコミュニティー形成に重点が置かれてきた。廃校となった学校を積極的に再利用するプロジェクトなども、愛着のある建物にまた人が集まる喜びを地元住民に与えているのかもしれない。

大地の芸術祭写真

廃校を展示空間へと変貌させるプロジェクト

大地の芸術祭写真
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滝沢達史『時の殻』。床や窓にかつての教室の面影が残る

廃校を利用した劇場空間もオープン。

大地の芸術祭写真

上述のように『大地の芸術祭』では、毎回多くの廃校が会場として利用されてきた。2015年も、会期中に「土」を体感する美術館へと変貌する『Soil Museum もぐらの館』や、会期後も体育館の大空間をいかして巨大な作品展示を続けていく「清津倉庫美術館」など、様々な廃校プロジェクトが進行しているが、特に話題を呼んでいるのが「上郷クローブ座」という劇場空間だ。稽古場に加えレジデンス施設を備えた同館では、30名ものアーティストが住み込みで滞在制作を行うことができる。2015年の芸術祭会期中には、サンプルやニブロールなどの作品が上演されるほか、指輪ホテルが滞在制作を行う。最初の使用者が、アジアの舞台芸術の未来を担うアーティストであるだけに、今後の演目についても期待が高まる。併設のレストランは、「食」をテーマに活動を行うEAT&ART TAROによるプロデュース。地元の人たちが料理をし、鑑賞者が食べるまでの一連の動きを演劇仕立てで展開するという。

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『Soil Museum もぐらの館』階段部分では佐藤香が地域の土を使って描く『原子へと続く道』が制作中だった

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清津倉庫美術館

「食」もアート空間で楽しめる。

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グローブ座をもじったというクローブ座の工事風景。スパイスのクローブから採られた名前にも「食」への想いが込められている

劇場型レストラン以外にも、清津倉庫美術館で購入できる弁当や、拠点施設内のレストランなどで、アート鑑賞とともに郷土料理を味わうことができる。目の前に広がる雄大な棚田とアーティスティックな店内装飾の対比がどこか非現実的な農舞台内のレストランでは、里山ならではの野菜や『こしひかり』をふんだんに用いたメニューを提供する。最近とみに「アートと食」といったことが言われるが、2000年の初回から「農業」、ひいては「食」という重大なテーマをおろそかにしなかった『大地の芸術祭』にとって、健康志向の和食ブームの追い風も受け大きな強みになるだろう。

大地の芸術祭写真

農舞台内の越後まつだい里山食堂では、約20種のメニューを好きなだけ楽しめる昼食ビュッフェが(芸術祭会期中無休)

大地の芸術祭写真

清津倉庫美術館の弁当を買って、同エリアにある『ポチョムキン』で食べるのも気持ちいいだろう

無料パンフレットは5ヶ国語対応。拠点施設をはじめ、各所にインフォメーションがあるが、すべての場所で英語対応を期待するのは難しいだろう。しかし、無料配布されるパンフレットは、日本語、英語、中国語(繁体字、簡体字)、韓国語の5ヶ国語それぞれで用意されている。日英バイリンガルのガイドマップ(100円)とあわせて手に入れて、越後妻有のアートな旅を楽しみたい。

『50 things to do in Japan(日本でしかできない50のこと)』 と題し、トラベル特集を展開している『タイムアウト東京マガジン/Time Out Tokyo Magazine(英語)』の最新号でも、『大地の芸術祭』を取り上げている。こちらもぜひ手に取ってみてほしい。

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